セント・バレンタイン Day after2
トゥルルル… トゥルルル…
耳元に当てた携帯から、着信のコールが鳴り響く。暫くして受話器から聞こえてきたのは、バニングス家に仕える老執事の声だった。
――はい、鮫島です。お嬢様、如何なされましたか?――
「もしもし、鮫島? 今日はすずかと歩いて帰るから、迎えはいらないわ」
――左様で御座いますか。解りました、気をつけてお帰りくださいませ――
鮫島はアリサからの連絡を受けて、いつもと変わらない沈着な様子でそう答えた。
「あー、終わったー!」
「ふふっ、お疲れさま、アリサちゃん」
すっかり日が暮れた、習い事からの帰り道。アリサとすずかは煌々と光る街灯の灯りを頼りに、ほの暗い道を二人で歩いている。
いつもならもっと早い時間に仲良し五人組で帰るのだが、今日はお稽古事の日だったのでなのは達とは別行動での帰宅になっていた。
「ねえねえアリサちゃん。…なのはちゃんは、上手くいったのかな?」
二人で家への帰路を辿りながら、すずかはそうアリサに問いかけた。弾む様なその声は、どことなくはしゃいでいるようにも聞こえる。
「さあねー。でも、あたし達まで巻き込んでおいて、それで上手くやらなかったらタダじゃおかないんだから」
対してアリサは、その問いに対して少しぶっきらぼうに、そう答えた。
・・・あ、もしかして・・・
「アリサちゃん…もしかして、今年はなのはちゃんからチョコをもらえなかったのを、怒ってたりするの?」
そうではない、という事を判りながらも、すずかは敢えてそう問いかけてみる。
するとすずかの予想通りに、アリサは少し慌てたように返答してきた。
「そ…そんなんじゃないわよ? ただ、なのはったらあたし達を放っておいてまでして、フェイトだけにチョコを作ったんだから」
実はなのはは、フェイト以外の友人達に
『今年のバレンタインは、フェイトちゃんだけにプレゼントをあげたいんだ。フェイトちゃんにとっては初めてのバレンタインだし…、わたしの気持ちも、知ってほしいから』
と話していた。
はやてもアリサもすずかも、二人の関係を理解しているから、なのはがどれだけ真剣に悩んでこの結論に至ったか、よく解っている。
「それに今日の事、そうとう本気みたいだったし…。だから、フェイトからちゃんと返事をもらえないと、なのは辛いだろうし…まあ、確かに色々と納得はしてないけど…」
そこまで聞いて、すずかはくすりと笑った。
要するにこの素直じゃない少女は、なのはの告白が成功したのかどうかが、友達として気になって仕方がないのだ。それこそ、自分と同様かそれ以上に。
「そんなに気にしてたなんて、やさしいんだね、アリサちゃん」
「う、うっさいわよすずかっ!」
そんな天の邪鬼なアリサの事を一番理解しているであろうすずかは、アリサからそんな暴言をぶつけられてもどこ吹く風と言わんばかりに、にこにことアリサを見ていた。
・・・ったく、やっぱり敵わないわね・・・
こういった雰囲気になったら、何を言ってもすずかには敵わない。
三年以上の付き合いでそれを学んでいるアリサは、これ以上反論することを諦めたのだった。
・・・まあ、すずかとのこんなやりとりも、嫌いじゃないし、ね・・・
そんなことをふと考えて、思わず顔が赤くなる。それを紛らわせるように、アリサは鞄の中から、琉璃色の包装袋を乱暴に取り出した。
「ほら、すずか。今年はあの二人にはあげられないし、はやても早退しちゃって渡せなかったから…。あんたに一番大きいやつ、あげるわよ」
そう言うと、ずいっとすずかの胸元に差し出した。
「わあ、それはラッキーだね♪ でもアリサちゃん、このメッセージカード、わたしの名前が書いてあるよ?」
それって、最初から本命をわたしにくれようとしてたって事なのかな?とすずかは聞いてみた。
「た、ただの偶然よ偶然! そんな深い意味なんて、別に無いんだからっ…」
案の定、アリサは慌てふためきながら弁明している。けれど、その一生懸命な言い訳も全くつじつまが合わなくて。
そんな様子が、すずかにはとても可愛く見えた。
「えへへ、ありがとうアリサちゃんっ。じゃあわたしからも…、はい、どうぞ」
対するすずかも、準備していた藍碧色の紙に包まれた箱を、アリサに手渡した。
「あ…ありがとう…」
こうなってしまうと、やはりすずかのペースには抗えない。少し小声になりながら、アリサはそれを受け取った。
・・・やっぱり、敵わないなぁ・・・
そう心の中で呟きながら、アリサは手に取ったプレゼントをまじまじと見つめていた。
「そうそう、アリサちゃん」
「なによ、まだ何かあるの?」
そんなやりとりをした後。二人並んで歩いていると、すずかがそう話を切り出してきた。
その顔はいつもの柔らかい頬笑みだけれど、その頬には仄かに朱色が燈っていて…。
「あのね、さっきわたしがあげたチョコ、本命だからね♪」
「…っ!?」
そんな表情でそんなことを言いますかこの娘は。
そう思いながら、なんとか冷静さを保とうと思っても、やっぱり鼓動は抑えられなくて。どんどん顔に熱がともるのを、自分でも判るくらいに感じて。
「ほ…ほら、さっさと帰るわよっ」
その事がばれないようにアリサは、くるりとすずかに背を向けて、すずかの手を後ろ手に握り歩き出す。決して、後ろを振り返らない様にしながら。
「…うんっ」
すずかはその繋がれた手のぬくもりに、自分の気持ちまで包まれていくようで。少し先を歩く少女の、素直じゃない優しさに幸せを感じながら。
暫くの間、お互いに言葉を交わさずに、そのぬくもりを感じ取りあった。
あとがき
三組三様のバレンタインデー。
なのはとフェイトはひたすらいちゃいちゃ、
八神家はほっこりハートフルに、
すずかとアリサはツンデレで、
とにかくみんな仲良くすごしていればいいと思う。
あと、絶対アリサさんはすずかさんに勝てないと思う(受攻な意味で)。
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